前途多難な地デジ化と心配な問題

前途多難な地デジ化 山積みの問題を抱えて・・

完全地上波デジタル放送実施まで、あとわずか。
国の政策として推進されてきた、地デジ化計画が完了する予定ですね。
2011年7月24日、今現在のアナログ電波は停止されるのです。不思議な事に、先進国のなかでは、日本だけが法によって計画決定されているという事態になっています。

 

各関係業界から、地上波デジタルは BSデジタルと共倒れになる・・などの声も聞こえるようですが、政府主導で半ば強引に、華々しい地デジ移行推進キャンペーンが繰り広げられています。
地デジの多くのメリットが提示されていますが、完全地デジ移行が 何故必要なのか、ユーザーにとって最大のメリットとはなにかという事が、明確には出てきていません。

 

実際には、欧米はじめ諸外国でも 地デジ化を進めていますが、あまり普及は進まず、地デジ完全移行時期の見直しを迫られているようです。アメリカでは、地デジ対応テレビの普及が大幅に遅れているので、政府が日本同様、完全移行を法令化しようと画策しています。
これに対して、アメリカの放送業界は、体制が整わないままの移行は視聴率に響くとの考えから“慎重”な姿勢。また、テレビなどの製造業界は、ハードが売れれば問題ないとの考えで“支持”というように、関係業界それぞれの思惑があるようです。 アメリカも、前途多難なようですね。

 

次に、地デジ化の裏の側面からみた、問題点を考えて見ましょう。

地デジ化の裏に隠れた問題点

「デジタル放送、いいこといっぱい。きれいで便利で・・・♪」と地デジ推進キャンペーンのCMが流れています。

 

視聴者アンケートの結果では、ハイビジョン化を強く望んでいる声も少ないし、高画質にして欲しいとも言ってない。また、リモコンが複雑になるのは誰も喜ばないといった結果が出ています。 それなら、視聴者が得る本当のメリットは何でしょう? それが明確に打ち出されていないのは、関係各部署が前向きでないからではないでしょうか。

 

今あるテレビでも 外部入力のある受像機だったら、チューナーを接続すればデジタル放送の視聴は可能です。 しかし、その業界のキャンペーンでは、ビデオ・ DVD レコーダなどほとんどの内蔵チューナが役に立たなくなり、 録画方法がわずらわしくなること・留守録が難しくなるという問題点が、まだ 表だってはっきりと知らされていません。

 

簡単に「チューナーを買って接続すれば見れますよ。それよりテレビやHDDレコーダーを買い換えましょう!」といわれても、視聴者は納得できないですよね。 どこの家庭にも、テレビがあって当たり前になっている現在、壊れてもいない耐久消費財の買い換えを勧めるような事態は、エコロジーが叫ばれている今の時代に逆行しているように思います。

 

2005年位まで、家電量販店でも地デジ対応テレビはほとんど、店頭に並んでいませんでした。 そのため、アナログ放送停止があと数年以内に迫っているという実感がわかない人も、多かったようです。
2008年では、家電量販店の店頭に陳列されている商品は、買い替え用の高価な薄型大画面テレビが中心で、薄型テレビと比べて安価な 地デジ対応ブラウン管テレビは姿を見ないようになってしまっています。

 

また、今使用しているアナログチューナー付きテレビに接続する、地デジチューナー自体が店頭にほとんど出されていないばかりか、大手メーカー製の地デジチューナーは高価で、5〜6万円もするといういただけない状況になっています。
このため、まだ十分に使えるテレビを買い代えたり、高いチューナーを追加購入することに抵抗感がある人も多く、これらのことが地デジ普及を妨げる大きな要因になっていると思います。

 

こんな状況の中で、半ば無理やりな感じで完全デジタル化を実施してしまうと、テレビを見捨てざるを得ない”地デジ難民“を生み出す事になりかねません。それでなくても、経済に翳りの見えてきた現状をとめられない日本政府は、低所得層や年金暮らしのお年寄りなど、社会的弱者のささやかな”娯楽“を奪ってしまうと考えないのでしょうか?

 

単純に考えて、今のテレビでも充分なのに、画一的に地デジ化を押し付けられる事に問題があるような気がします。もっと長い目で見て、テレビの平均的買い換え期間も考慮に入れて、無理なく地デジ化を進めるべきだと思うのですが・・・。
経済力も伴わないのに、無理やり”広ーい庭付きの豪邸“への引っ越しを押し付けられても、困りますよね。 今住んでいる”フツウの一軒家“でも十分なのに。 そりゃあ、広い庭や豪邸は憧れますけどね(苦笑)・・・
地デジ化やハイビジョンも、そのようなものでしょ?

 

しかも、もっといただけない事は、日本初の放送局倒産となった衛星デジタルラジオ「セント・ギガ(St.GIGA)」の例や、わずか3年で事業撤退したデジタルCS「DIREC TV」の例が、全くその後の教訓として活かされていない事です!

 

DIREC TV は、通信衛星の位置が異なるため、「パーフェクTV」用のアンテナでは視聴不可能という問題を抱えたまま、見切り発車したのです。 CSデジタル放送を全部観るためには、両方の事業者と契約し、それぞれの専用アンテナを設置せざるをえなかったのです。
そのため、日本の住宅事情とも相まって二の足を踏む人が多く、加入者数が伸び悩むという事に、そのまま結びついてしまいました。

 

そして、外資系特有の判断の早さで、わずか3年で事業から撤退、日本法人は清算され 事実上倒産しました。 
当時の「DIREC TV」加入者40万人がどうなったかというと、総務省のごり押しで現在の”スカパー“に、不良債権のごとく、無理やり押し付けられました。お役人は「無事移行、視聴者を保護した」と、ホッと一安心したかもしれませんが、DIREC TVのアンテナ・チューナーを購入して設置した視聴者は、一体何が起こったのか、釈然としない気持ちで一杯だったことだろうと推察します。

 

最近、各方面でいろいろと問題視されている地デジよりも、10 年ほど前にスタートしたCSデジタル放送では、こんな由々しき出来事があったのです。
その経験が全く生かされないまま、地デジがスタートすれば必ず問題が起こりうると思います。

 

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行政側の無策 その後と最近の動き

最近になってようやく、実際に完全デジタル移行が難しいという事実に対して、様々な提言が出されてきています。
一例として、低所得層にはチューナを無償で配るとか、5千円以下の「地デジ簡易チューナー」製品を作る事を、メーカー側に伝えたりという動きが出てきているようです。これらも、所詮 場当たり的な話しで、根本的な解決とはなりえません。

 

他にも、4階建て以上の集合住宅での、地上デジタルTV放送の受信対応状況の問題があります。
2007年2月と3月に実施された日本CATV技術協会の調査(全国51万8千棟のうち、約2万3千棟が対象)では、改修不要:30.8%、改修済み:23.4%、改修計画が未定:40.8%という結果が出ました。
改修不要のうち71.1%が、改修済みの棟でも68.3%が ケーブルTVの対応なので、内実はほとんどの集合住宅が工事を行なった訳ではないのです。

 

2011年まで残された時間は少ないのですが、全国の改修計画未定の40.8%に該当する集合住宅が 2011年の完全移行直前になって、一斉に改修工事の実施を依頼する事態になる事も予想されます。
現実問題として、アナログ放送停止直前になって工事依頼が殺到しても、工事業者の人手は限られている事から 多数の工事に対応できないことは、分かりきっていますよね。
これにたいする行政側の指導も、ほとんどなされていないようです。

 

また、2007年3月現在、総務省の調べで「地上アナログ放送が停止される」認知率は93.9%で、それが2011年と知っているのは60.4%。未だに知らない人は存在しています。
これに対しては、地上波テレビ放送で繰り返し、アナログ放送の終了を知らせるCM・告知が放送されています。 家電量販店の店頭では、アナログのみのテレビには「2011年アナログテレビ放送終了」のシールを貼付しています。

 

一方、カーナビのチューナーは、2008年でも多くが地上アナログ波用です。 地デジのチューナーは、ディラーオプションのものが多いです。 2005年までは、ディラーオプションも設定されていないものが多かったのです。 2006年以前は、ワンセグ/12セグ切り替えに数秒以上 時間が掛かるなど、移動時の受信性能に問題があり、地デジ電波の弱さや、全国で地デジ電波が送信されていなかったことなども併せて、ユーザーへの説明が不足していたようです。

 

以上のように、様々な問題が山積みの状況ではあるけれど、既にアナログ停波を宣言してしまっている以上、停波自体を覆す事は簡単ではありません。何故なら、すでに買い替えをしてしまった視聴者からの反発が予想されるからです。
また 停波の時期延長も、電波法の再改正をしなければならないため、これも簡単にはいきません。
なお、2007年11月現在で、世界のなかでアナログ放送を完全に停止した国は、オランダ、アンドラ公国、フィンランド、イギリスのみで、アメリカや韓国は、当初の終了予定を過ぎた現在でもアナログ放送を継続しているので、「日本でも同様の措置を取るべきだ」との声が強く、今後 行政の中でも激しい論争が巻き起こるやもしれません

 

むやみやたらに「決まった事だから」と 問題を切り捨てて急ぐのではなく、充分議論を尽くし 周囲もよく見渡して どのようにしていくのが視聴者にとって望ましいかを、考慮していただきだいものですね。

 

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